最初に給水区画を分け、基準トレイを固定する
農林水産省が公表する高温対策資料では、ブロッコリーの播種後から育苗期に発芽率の低下や生育遅延が懸念され、適正なかん水、環境ムラの軽減、底面かん水育苗などが対策例に挙げられています。一方で、かん水の見極めが難しいことや、水源確保が必要になることも留意点です。そこで実務上は、育苗棚を給水バルブ、ホース、ノズル列、棚の高さなど、水の届き方が変わる単位で区切ります。各区画の中央だけでなく、給水口に近い側と遠い側、風が当たる側などから基準トレイを選び、毎日同じ場所で比較できるよう印を付けます。
かん水時刻だけを記録しても、実際に培土へ入った水量は分かりません。朝の作業前に基準トレイを持ち上げ、中央と端のセルを比較し、可能であれば確認用のセルを一つ抜いて表面だけでなく下層の湿りを見ます。根鉢がまだ形成されていない時期は無理に抜かず、トレイ底の穴や培土表面、重量感を組み合わせて判断します。かん水後はトレイ底からの排水、特定の列だけに残る水、通路への流出も確認します。この手順は一律の重量基準を示すものではありません。同じ規格でも培土、苗齢、詰め方、トレイの置き場所で乾き方が異なるため、自園の同一トレイを継続比較するための運用です。
発芽前と発芽後では、水を入れる目的を切り替える
発芽前は、種子の周囲を乾かさず、同時に酸素不足を招くほど水を滞留させないことが基本です。農研機構が取りまとめた農林水産省資料では、ブロッコリーの発芽適温を20~25℃とし、高温乾燥による水分不足だけでなく、かん水過多時には酸素不足も発芽不良へ影響しやすいとしています。新潟県の地域向け資料には、播種前日に培土へ十分かん水して一晩静置し、播種後は軽くかん水する管理例があります。ただし、培土や作型を問わない全国共通の処方ではありません。初回は少数のトレイで吸水と排水を確かめ、覆土の流亡やセル間の吸水差がないかを見てから全量へ広げます。
発芽後は、乾燥防止だけでなく徒長を避ける視点が加わります。農林水産省資料は、高温・多湿時には苗の蒸散量低下による体内水分の過剰が徒長を促すとして、苗がしおれない程度にかん水量を控え、換気を促す方法を示しています。したがって、日中に葉が下がったという一点だけで根域へ追加給水するのは避けます。まず基準トレイの重さ、培土内部、風の有無、区画内で症状が広がっているかを確認します。培土が十分湿っているのに一部の苗だけが倒れる、株元が変色する、回復しないといった場合は、単純な水切れと決めつけません。高温多湿で助長される苗立枯病なども考えられるため、疑わしい株を分け、地域の普及指導機関へ相談します。
底面かん水は時間設定より吸水と排水を点検する
頭上かん水のムラや作業負担が大きい場合は、発芽揃い後の底面かん水が選択肢になります。新潟県農業総合研究所の装置例は、一般的な128穴、200穴トレイについて、底面から5~10mmの水位を目安とし、設定水位へ達したら余剰水を速やかに排出する方法を示しています。ただし、同資料の給水時間は特定の装置、水圧、チューブを用いた試験例です。別の施設で同じ時間をタイマーへ入力しても同じ水位になるとは限りません。最初に実際の水位と培土の吸水状態を測り、給水口からの距離による差も確認して設定します。
底面かん水は自動化しても無点検にはできません。同研究所は、水圧の変化、タイマーの作動、かん水量、苗の生育を毎日確認するよう求めています。また、トレイ下へ長時間水を残すと底穴から根が伸びやすく、底面かん水では培土の保水性が高まって苗がやや徒長する場合があるとしています。翌朝も基準トレイが重い区画では、運転時間を機械的に繰り返す前に、排水口の詰まり、床面の傾き、給水量、前日の天候を点検します。なお、播種から発芽揃いまでは頭上かん水を基本とすることが同資料の留意点です。底面方式を導入したからといって、全生育段階を同じ設定で管理するものではありません。
定植前は苗への最後の水より、本圃の給水体制を先に決める
育苗の出口は、苗を乾かして硬くすること自体ではなく、根鉢を崩さず定植し、本圃で活着させることです。定植予定日の数日前から、基準トレイで根鉢の形成、根の色、葉数、苗のばらつきを確認し、必要以上の追い水で作業可能な状態を失わないようにします。一方、極端に乾かした苗をそのまま植える運用も避けます。千葉県の水田裏作野菜の技術資料では、セル育苗の一例として128穴トレイ、育苗23~25日、本葉2.5~3枚を目安にしていますが、これは同資料の作型と品種を前提とした目安です。実際の定植判断は、地域の栽培指針、品種、トレイ規格、根鉢の状態を優先します。
埼玉県の高温対策資料は、ブロッコリーとキャベツの定植について、暑い日中を避けて涼しい夕方または早朝に行い、土壌が乾いている場合は植え穴へ十分かん水し、定植後もこまめなかん水で活着を促すよう示しています。定植日を決める際は、本圃の土壌水分、植え穴へ水を入れる設備、定植後の給水担当者まで確認します。本圃で給水できないのに、育苗トレイだけを多量の水でつないで定植を先延ばしすると、苗齢と徒長の問題が重なります。作業記録には、区画名、かん水前の基準トレイ、給水方法、排水確認、定植予定、定植後の給水可否を一行で残し、翌日の設定変更へつなげます。