警戒レベルではなく「作業を終える時刻」へ翻訳する
気象庁は2026年5月29日、河川氾濫、大雨、土砂災害、高潮に関する防災気象情報を5段階の警戒レベルと対応させ、名称にも数字を付ける新しい運用を始めた。例えば従来の大雨警報は「レベル3大雨警報」となった。ただし、この数字は農場へ向かうタイミングではない。気象庁は、レベル3や4に相当する情報が発表された場合、自治体から避難情報が出ていなくても、キキクルや河川水位などを確認し、自ら避難を判断するよう求めている。農場では「レベル3が出たら点検開始」ではなく、「レベル3が見込まれる時刻までに全員が危険箇所から離れている」という使い方に変える。
新設された「時系列情報(明日までの警報等の見通し)」は、注意報や警報などの基準を超える現象や、情報の発表が見込まれる時間帯を示す。原則として毎日5時、11時、17時、23時に更新され、見通しが大きく変われば臨時の修正もある。朝礼では責任者が対象地域の時系列情報を確認し、危険が見込まれる時間から、避難に必要な時間、従業員の帰宅時間、農場内の移動時間を差し引いて撤収時刻を設定する。早期注意情報や台風進路予報は数日前の人員調整に、時系列情報は前日から当日の締切設定に、キキクルや河川情報は危険の高まりを確かめる用途に分けると判断がぶれにくい。
自治体が発令する避難指示と、気象庁などが示す警戒レベル相当情報は役割が異なる。農場の行動表は公的な避難情報を置き換えるものではない。内閣府のガイドラインが示すとおり、警戒レベル4までに危険な場所から避難することが原則であり、警戒レベル5の発表を待ってはいけない。河川、水路、崖、低い道路に近い農場では、ハザードマップで危険箇所と安全な経路を平時に確認し、雨量や水位、道路状況が想定より早く悪化したら、表に書いた締切を前倒しする。
撤収表は担当者・代行者・完了確認まで一枚にする
撤収表の先頭には、情報確認責任者と代行者を一人ずつ記入する。次に、従業員や家族へ一斉連絡する手段、連絡が届かなかった人を確認する方法、避難先と代替避難先、移動に使わない危険経路を載せる。作業項目には「始める条件」だけでなく「未完了でも中止する時刻」を付けることが重要だ。全員の退出を誰が確認するか、鍵や車両の移動を誰が担当するかも明記し、一人の不在で判断が止まらないようにする。短期雇用者や応援者にも読めるよう、時刻、場所、禁止事項を短い表現で示し、口頭連絡だけに依存しない。
農林水産省の農業版BCPには、耕種、園芸、畜産の様式があり、平時と災害直前の備えを扱うリスクマネジメント編、被災後の人、物、資金・セーフティネット、情報を扱う事業継続編が用意されている。これを利用して、農機や選果設備が使えない場合の代替手段、停電時に維持する業務、取引先への連絡順、復旧を依頼する施工業者や整備業者を整理する。完成した表には作成日と見直し日を入れ、台風期の前に読み合わせる。机上確認だけでなく、一斉連絡が全員へ届くか、代行者が判断できるか、安全な退出経路を実際に通れるかも確かめる。
発電機や排水ポンプを保有していても、非常時に直ちに使えるとは限らない。対象設備、必要な接続、燃料、始動手順、設置場所を取扱説明書と設備業者の指示に沿って平時に確認する。個別施設の耐風性能や発電機容量は製品、設計、接続負荷によって異なるため、一般的な数値を撤収基準へ転用しない。図面、仕様書、取扱説明書に記載がなければ、施工業者やメーカーへ確認する。非常用設備を動かすために、風雨が強まった後で農場へ戻る計画にはしない。
施設対策は平時に進め、直前作業には終了線を引く
農林水産省の台風前チェックリストでは、ハウス周辺の飛散物の片付け、燃料タンクやガスボンベの固定、排水溝、谷樋、縦樋の清掃などが挙げられている。さらに、被覆材のたるみや破れ、出入口や換気部の隙間、ハウスバンドと留め金具の緩み、基礎や接続部の腐食・さびを確認する。これらは台風接近時に初めて着手する仕事ではない。棟ごとの点検日と補修履歴を持ち、古い棟、過去に損傷した箇所、部材の劣化がある棟から平時に対応する。危険な時間帯が近づいたら、未完了の点検を残してでも撤収する。
作業終了線は施設数、必要人数、工具の片付け、圃場から安全な場所までの移動を含めて設定する。「風が強くなったら終了」のような感覚的な条件ではなく、「時系列情報で危険が見込まれる時間の何時間前までに全員退出する」「道路冠水、用排水路の増水、自治体の避難情報のいずれかが先行したら即時中止する」と書く。夜間の単独点検、強風下の屋根や高所作業、増水した水路の確認は予定に入れない。農機や資材の退避も、安全に終了できる時間が残っている場合に限る。
被覆材の除去を選択肢にする場合は、施設の仕様、施工業者の助言、必要人数、作業時間を平時に確認する。切断除去は園芸施設共済の取扱いに関係するため、事前に農業共済組合などへ相談する。強風が始まってから被覆材を外すか検討したり、共済のために危険な現場へ戻ったりしてはいけない。撤収表には「補強作業の完了条件」と同じ大きさで「以後は作業しない条件」を記載する。
通過後は再入場を別の判断として扱う
雨や風が弱まった感覚だけで見回りを再開しない。警報、キキクル、河川水位、自治体情報を確認し、避難が必要な状況ではなく、安全な経路が確保されていることを再入場の前提にする。倒れかけた支柱や樹木、垂れ下がった電線、洗掘された路肩、冠水した分電盤やモーターには近づかない。施設の変形や電気設備の浸水が疑われる場合は、区域を立入禁止にして施工業者や電気工事業者へ連絡する。被害記録の撮影も、安全な位置から可能な範囲に限る。
浸水した農業機械は、外見に異常がなくても始動しない。農林水産省は、JA農機センターや農機販売整備業者などが点検する前にエンジンをかけないよう注意している。バッテリー、配線、モーターが浸水すると、ショートや漏電、火災につながるおそれがあるためだ。水が引いた後は整備業者へ相談し、自己判断でスイッチを入れない。共済・保険に加入している場合は、片付けや解体を始める前に契約先へ連絡し、必要な記録と手続きを確認する。
再開判断は「人が入れる」「電気を使える」「機械を動かせる」「通常作業へ戻れる」の段階に分けるとよい。安全な通路を確保できても、電気や機械の使用を同時に許可する必要はない。各段階の許可者と専門業者の確認が必要な設備を撤収表へ追記し、台風後の経験を次回の締切時刻や退避順へ反映する。撤収ルールの目的は施設を最後まで守ることではなく、危険な追加作業を発生させず、安全に営農を再開できる状態をつくることである。