実務で最初に決めるのは、母豚を冷やす区域と哺乳豚を保温する区域です。愛知県畜産総合センターの「系統豚飼養管理のポイント」は、環境温度の目安として母豚を15~21℃、0~21日齢の哺乳期を29~32℃と示し、豚舎構造や移動日齢によっても適温が異なると注記しています。同じ分娩房に要求の異なる豚がいるため、中央の温度計一つを見て舎内全体を冷却すると、母豚には暑く、子豚には寒いという状態を見逃しかねません。

同資料は、子豚の保温スペースを確保したうえで母豚側に涼しい空気が流れるよう空調を配置し、冷たい風を子豚へ直接当てないよう求めています。農林水産省の指針も、新生子豚は体温調節機能が未発達で、保温箱、加温器、保温マットなどによる保護が必要としています。そこで、母豚の頭部・胴体付近と子豚の保温場所の双方に観察点を置きます。温度計の値だけでなく、子豚が保温域を利用しているか、母豚のそばへ偏って寝ていないかまで確認するのが二つの区域を維持する基本です。

屋根散水の役割は、豚へ直接水をかけることではなく、日射を受けた屋根から舎内へ入る熱を抑えることです。千葉県畜産総合研究センターの2021年の試験では、園芸用スプリンクラーによる屋根散水と換気扇を併用した区で、対照区より豚舎内、屋根内側、豚房壁面の温度と舎内湿度が低くなりました。母豚の体表温度と直腸温度も低く、12時と16時の呼吸数は対照区より2~3割程度少ない結果でした。ただし、これは特定施設、品種、運転条件で得られた試験成績です。この割合や温度を自農場の達成基準にせず、屋根散水と換気を組み合わせる根拠として扱います。

運転前には、屋根全体で散水範囲に大きな欠けがないか、ノズルの詰まりや配管の漏れがないか、排水が換気口や電気設備側へ回り込まないかを確認します。屋根材への散水可否、設備との離隔、歩行や高所作業の安全条件は、施工業者や各機器の取扱説明書に従います。千葉県の資料は、特に差が現れた12~16時だけでなく、近年は朝から暑いため午前中から対策するよう勧めています。始業時に試運転を終え、暑くなってから詰まりを直す運用を避けます。

測定点は、母豚が横臥する位置の高さと、子豚の保温場所付近に分け、日射、散水、水滴、加温器の放射熱が温湿度計へ直接当たらないよう固定します。同じ豚舎内でも場所や高さによって温度が異なるため、通路中央の一地点だけでは局所的な暑さや冷たい風を判断できません。午前、正午前後、午後、必要に応じて夜間という農場内の確認時刻を定め、両地点の温湿度、母豚の呼吸の変化、採食、子豚の休息場所を一枚に残します。呼吸数を数える場合は、落ち着いている同じ母豚を同じ方法で1分間観察し、診断値ではなく日ごとの変化を見る材料にします。

農林水産省の指針は、暑熱時には観察頻度を増やし、健康状態、採食、水の供給、換気、最高・最低温度、湿度などを毎日記録するよう示しています。母豚の呼吸が増えたときは、温度だけで結論を出さず、換気扇の作動、吸気経路、屋根散水の偏り、飲水、疾病を順に確認します。一方、子豚が保温場所を使わず母豚の周囲へ集まる場合は、舎内全体の温度を上げる前に、保温設備の作動、冷気の侵入、保温場所の汚れや使いにくさを点検します。愛知県の資料は、子豚が母豚のそばで寝る状態が圧死増加につながる可能性も指摘しているため、寝場所の記録は温度記録と同じ重みで扱います。

屋根散水と換気の終了を日没時刻だけで固定せず、午後から夜の母豚側温湿度、呼吸の戻り方、子豚の寝場所で判断します。千葉県の技術資料は、外気温が平均30℃を超える時間帯が長く続く猛暑下では、散水時間の延長や換気扇の夜間稼働が必要になると考察しています。ただし、夜間も子豚へ冷気を直接当てない配置が前提です。換気は熱だけでなく、湿気、アンモニア、二酸化炭素、ほこりなどを排出する役割もあるため、保温を理由に分娩舎を密閉しないようにします。

停電、断水、ポンプ停止にも備えます。農林水産省の指針は、電気、水、飼料の供給停止に対応するため、連絡先、燃料備蓄、代替取水、自家発電機や代替システムなどを含む緊急時計画を求めています。飲用水と屋根散水が同じ水源を使い、断水時に利用できる水が限られる場合は、追加的な飲用水の提供を優先します。分電盤、ポンプ、換気扇、保温設備ごとに「誰が停止を確認するか」「どこへ連絡するか」「どの代替手段へ切り替えるか」を紙にし、設備の正常作動を少なくとも1日1回確認します。異常な呼吸、食欲低下、起立困難、子豚の活力低下などがあれば、冷却設備の調整だけで済ませず、記録を添えて管理獣医師へ相談します。