めまい、立ちくらみ、大量の発汗、こむら返り、頭痛、吐き気、強い倦怠感、ふらつきなどがあれば、本人の自己申告だけで作業継続を決めません。刈払機、トラクター、運搬車などを扱っている場合は、周囲の人が二次災害を避けながら機械を安全に停止させ、本人を暑熱環境から離します。農林水産省の令和8年資料も、異常を感じたら直ちに作業を中断し、涼しい場所で衣服を緩めて身体を冷やすよう示しています。冷房の効いた室内がなければ、風通しのよい日陰や冷却設備のある休憩場所へ移します。

次に見るのは、単に目を開けているかではなく、呼びかけに普段どおり返答できるか、自力で飲料を持って飲み込めるかです。返答がかみ合わない、反応が鈍い、まっすぐ歩けないといった変化は「本人が大丈夫と言った」だけでは打ち消せません。農林水産省の農業者向け資料は、意識がもうろうとしている、または返答がおかしい場合には直ちに119番へ連絡するよう示しています。厚生労働省も、意識がない場合や自力で水を飲めない場合は、すぐに救急車を呼ぶよう案内しています。飲ませることを先にせず、反応と自力飲水の可否を確認する順番が重要です。

返答がおかしい、意識がない、自力で飲めない場合は、一人が119番へ通報し、別の人が身体冷却を始めます。二人いなければ、電話をスピーカーにして指令員の指示を受けながら、可能な範囲で冷却を続けます。通報時には、熱中症が疑われること、現在の反応、呼吸の様子、ほ場や施設の所在地、進入経路、目印を伝えます。救急隊の到着を待ってから冷やし始めるのではなく、通報と冷却を並行させます。本人を軽トラックなどに一人で乗せたり、本人の運転で帰宅・受診させたりしてはいけません。容態が変化する可能性があるため、搬送まで必ず付き添います。

厚生労働省は、衣服を緩め、特に首の周り、脇の下、足の付け根などを冷やす方法を示しています。職場向け通知では、十分に涼しい場所への避難、作業着を脱がせて水をかける方法、ミストファン、濡れタオルと送風なども身体冷却の例とされています。農場では、冷水、濡らせるタオル、送風機、保冷剤など、その場所で直ちに使える手段を組み合わせます。ただし、冷却方法の準備に時間をかけて通報を遅らせてはいけません。全身を冷やせる環境がなくても、衣服を緩め、日射を避け、濡れた皮膚や衣服に風を当てるなど、可能な冷却をすぐ始めます。

意識がはっきりし、自分で容器を持って安全に飲み込める場合は、涼しい場所で身体を冷やしながら水分・塩分を補給します。大量に汗をかいているときには経口補水液などが選択肢になります。ただし、経口補水液を一時に大量摂取するとナトリウムの過剰摂取につながる可能性があると厚生労働省は注意しています。腎臓や心臓などの疾患で医師から水分摂取について指示を受けている人は、その指示に従います。経口補水液を日常の水分として常飲させるのではなく、体調と自力飲水の可否を見て使います。

吐き気が強い、むせる、容器を保持できない、呼びかけへの反応が不自然といった状態では、無理に口へ飲料を流し込みません。飲めないこと自体が医療につなぐ重要な判断材料です。また、自力で飲めても、冷却と休息によって症状が改善しない、いったん改善した症状が再び現れる、反応が悪くなる場合は、作業へ戻さず医療機関につなぎます。「一本飲み切れたから安全」「汗が出ているから軽症」といった農場独自の判定は置きません。飲水量の達成を目標にするのではなく、反応、飲み込み、症状の推移を付き添う人が観察します。

応急処置を実行できるかは、用品の有無だけでなく配置で決まります。ほ場やハウスごとに、最も近い冷房の効いた部屋または風通しのよい日陰、冷却用品の保管場所、携帯電話が通じる地点、救急車が進入できる入口を一枚の地図にします。番地だけでは到達しにくい農道や園地では、公道からの曲がり角、ゲート、ハウス番号などの目印を記載します。通報者、冷却担当、道路で救急車を誘導する担当を朝の作業割りで決めておけば、発生後に全員が電話を始めたり、反対に誰も付き添わなかったりする事態を避けられます。単独作業者にも、所在地と緊急連絡先を記したカードを携行させます。

救急隊や医療機関へは、発見時刻、発見場所と作業内容、確認した症状、反応の変化、実施した冷却、飲水できたかどうかを簡潔に渡します。記憶だけに頼らず、作業表の余白や定型メモへ時刻順に記録すると引継ぎやすくなります。雇用労働者が対象となる暑熱作業を行う事業場では、改正労働安全衛生規則に基づき、熱中症のおそれがある人を報告する体制、重篤化を防ぐ措置の手順、関係作業者への周知が必要です。家族経営や共同作業でも、同じ考え方で短い模擬訓練を行い、通報、移動、冷却、誘導を実際に試します。症状が出てから手順書を探すのではなく、冷却地点に掲示し、携帯電話からも確認できる状態にしておきます。