結論:一発肥料でも葉色診断を外さない
肥効調節型肥料を全量基肥として施用した圃場も、「穂肥作業を省ける体系」と「生育診断まで不要な体系」を混同しないことが重要です。農林水産省の高温対策は、葉色を見た生育診断と適期・適量の穂肥を求め、基肥一発肥料を使った場合にも現場で生育・栄養診断を行うよう示しています。まず作業予定表に、圃場名、品種、移植日、施肥体系、肥料名と施用量、予想出穂期、葉色診断日を並べます。一発体系だけを診断対象から除外せず、出穂が早い圃場から順に確認できる巡回表へ変えるのが実務的です。
その理由は、被覆肥料の溶出が温度の影響を受けるためです。農林水産省の整理では、高温年には肥料の溶出と水稲の生育がともに早まり、生育後半に窒素不足となる場合があります。一方、診断前から多量の窒素を上乗せすれば、倒伏や玄米タンパク質への影響も考えなければなりません。したがって「一発肥料だから追肥しない」「高温だから全圃場へ追肥する」という二択にはせず、出穂前の再診断を判断の入口にします。肥料袋や注文書に記載された銘柄、窒素成分量、施用日も現場へ持ち出せる形で保存しておきます。
出穂予想日を更新して診断日を動かす
葉色を見る日は固定した暦日ではなく、圃場別の予想出穂期から設定します。新潟農業普及指導センターが2026年7月21日に公表した速報では、5月5日に稚苗移植したコシヒカリの出穂期を7月31日と予測し、出穂期10日前頃の穂肥を示しました。同じ地域の7月8日資料では予想出穂期が8月1日でした。わずかな変更でも、作業面積が大きければ巡回順、肥料手配、散布作業の締切に影響します。県や普及指導センターの速報が更新されたら、経営内の全圃場を一律に動かすのではなく、品種、移植時期、標高や地帯区分など地域資料の前提に合う圃場だけを更新します。
測定時は、都道府県の栽培指針が指定する葉位、株数、測定位置、葉色板またはSPAD計の使用方法に従います。毎回同じ圃場内の一株だけを見ると、欠株周辺、施肥むら、水口付近などの偏りを拾うため、地域手順に沿って複数地点を測ります。記録には平均値だけでなく、測定日、地点ごとの値、測定方法、草丈、茎数、生育のむら、前回値を残します。機器や測定条件を途中で変えた場合はその事実も記載します。数日後に再測定した際、稲の変化なのか測り方の違いなのかを判別できる記録にすることが目的です。
SPAD値は生育時期と地域基準をセットで読む
SPAD値には全国共通の追肥境界値がありません。2026年の新潟地域の同じコシヒカリ7調査地点では、7月8日の平均SPAD値35.0が生育指標との比較で「淡い」、7月21日の34.6が「並」と評価されています。数値が小さくなったのに評価が変わるのは、比較対象となる指標値が生育段階によって異なるためです。検索で見つけた「SPAD33」などの数字だけを自分の品種や地域へ移さず、当年の地域資料に書かれた品種、移植日、診断時期、栽培体系の前提まで確認します。葉色板の値とSPAD値も、独自に換算せず、地域資料に換算方法が示されている場合だけ用います。
新潟地域の7月21日資料は、同資料の条件におけるコシヒカリについて、出穂期の葉色をSPAD値32~33に維持できないと予想される場合、分施・全量基肥の両体系で出穂期3日前までの追加穂肥を示しています。しかし、これは新潟地域のコシヒカリに対する当年の指導例であり、全国一律の量や期限ではありません。新潟県農業総合研究所の穂肥診断も、目標SPAD値と2回目穂肥時の実測値から量を求める考え方を示しており、単一の実測値だけで決める方法ではありません。自地域では、県の施肥基準、最新の技術情報、JAの栽培暦を優先します。
葉色、倒伏リスク、施肥履歴を一枚で照合する
追肥判断表には、葉色だけでなく、草丈、茎数、葉齢、倒伏歴、基肥と既施用穂肥の窒素成分量、予想出穂期、用水条件を並べます。葉色が薄くても、草丈が長い、茎数が多い、すでに穂肥を施用した直後といった圃場では、追加時期や量を慎重に確認する必要があります。反対に、平均値が基準内でも、圃場内の一部だけ著しく低い場合は、施肥むら、水管理、病害や根の障害など、窒素不足以外の原因も切り分けます。葉色低下を見つけた時点で肥料散布へ直行せず、地域基準に対する位置、出穂までの残日数、既施用量をそろえてから相談します。
農研機構は、コシヒカリを用いた高温処理試験で、窒素施与が高温下のタンパク質合成を支え、背白粒の発生を抑える仕組みを報告しています。ただし、その試験結果は特定条件の研究成果であり、任意の品種や圃場に同じ施用量と効果を保証するものではありません。現場では、追肥の有無、肥料名、窒素成分量、施用日、判断に使った葉色値を収穫時の倒伏、収量、検査等級、玄米タンパク質などの結果と結び付けます。全量基肥体系を続ける場合も、この履歴が翌年の銘柄、溶出タイプ、基肥量を地域の指導機関と見直す材料になります。