結論は「乾燥」と「排水可能」を同時に満たすほ場から入れる
農林水産省の技術指針は、大豆では開花期以降の干ばつが落花・落莢、着莢率の低下、不稔莢の増加、着粒重の減少を招くとして、状況に応じたかん水を求めています。一方、滞水や過剰な土壌水分は根の呼吸を妨げ、生育遅延や根腐れにつながるため、あらかじめ排水溝や簡易暗きょなどを整えることも示しています。したがって、給水の候補は「開花後で乾燥が進むほ場」だけでは足りません。「給水後に水を抜けるほ場」であることまで確認して初めて着手できます。
朝の巡回では、初開花日、直近のまとまった雨、作土の湿り、葉の巻きや反転、亀裂、排水口の開閉、明きょの詰まりを同じ表へ記録します。複数ほ場がある場合は、開花後で乾きが進み、排水路までの経路が通っているほ場を優先します。排水口が土砂や残さで塞がれている、明きょが途中で途切れている、排水先の水位が高いといったほ場は、入水予定表からいったん外し、排水機能の回復を先に行います。
葉が内側へ巻き、ほ場全体が白っぽく見える状態は、かん水準備を始める合図ではなく、乾燥がすでに進んでいる兆候として扱います。中国四国農政局の地下かんがい資料も、この状態になる前の水分補給を求めています。葉だけを待たず、開花日、降雨記録、土の状態を先行指標にし、葉の変化は緊急度を上げる材料として使うのが実務的です。かん水できない場合は、地域の普及指導機関へ早めに相談し、水源や水利の確認を前倒しします。
「何日雨がないか」は方式と地域を付けて読む
かん水の目安は資料によって異なります。中国四国農政局が南周防地域の地下かんがい向けに示す資料では、20ミリメートル以上の日降雨がない期間が7日程度続くことを目安とし、現場で土の乾き具合を確認するよう求めています。同資料では、畝上から約30センチメートルの深さに湿り気がなければ土壌水分が不足しているとしています。これは地下かんがいを前提とした地域資料であり、全国の畝間かん水へ数値だけを移す基準ではありません。
農林水産省が公開する滋賀県の大豆栽培資料では、開花期から子実肥大期に10日以上降雨がない場合、または日中に葉の反転が50%以上見られる場合にかん水するとしています。この違いは、土壌の保水性、日射や気温、降雨、かん水方式などによって乾燥速度が変わるためです。「7日」と「10日」のどちらが正しいかを選ぶのではなく、自分の地域と方式に対応する栽培指針を主基準にし、日数、土、作物体の三つを照合します。
少量の夕立があったときも、雨を見ただけで無降雨日数を機械的にゼロへ戻しません。雨量計や気象庁の観測値で量を確認し、固定した調査地点で作土の湿りが回復したかを確かめます。アメダスは地域の降水状況を知る有用な資料ですが、観測地点とほ場で降雨が異なる場合があります。ほ場入口だけでなく中央部や乾きやすい場所も見て、雨量記録と現地の土が食い違った場合は、現地確認をかん水判断に反映します。
水口で時間を測るだけでなく、末端到達を停止条件にする
滋賀県の栽培資料は、うね間や明きょへ通水し、ほ場全体へ水が行き渡ったら速やかに落水するよう示しています。長時間の停滞は湿害につながるため、必要な水を通した後に湛水を続けないことが要点です。水口に水が入った時刻だけでは、末端へ届いたか、途中の低い場所に偏ったかが分かりません。給水中は水口、中央、末端を順に確認し、「末端到達」と「局所的な深い滞水」のどちらが先に起きるかを見ます。
記録欄は、給水開始時刻、中央到達時刻、末端到達時刻、給水停止時刻、排水確認時刻の五つにします。末端へ届かないのに水口側だけが深くなる場合は、単純に通水を延長せず、畝間の閉塞、高低差、流入口の位置を確認します。水量が十分確保できない場合について、滋賀県資料は、ほ場を分割して数日かけてかん水する方法を示しています。一筆全体へ一度に流すことへ固執せず、水が届く範囲を把握して区画ごとに進めます。
水位の数値は、栽培方式に対応する地域資料を使用します。滋賀県資料には、うね間かん水では水口部をうね高さの2分の1から3分の2程度とする目安がありますが、畝高、土質、勾配、明きょ通水、地下かんがいでは操作が異なります。別方式の数値をそのまま採用せず、地域指針、普及指導機関、水利管理者の指示を優先してください。降雨が予想される場合は排水余地を確保し、用水の利用時間や操作範囲も土地改良区などへ事前に確認します。
翌朝の滞水を見て、次回の通水条件を補正する
かん水作業は給水停止で終わりません。当日の排水確認に加え、翌朝、同じ調査地点で表面の滞水、作土の湿り、畝間の偏り、葉の状態を確認します。停滞水が残っていれば、次回の通水時間を延ばさず、まず排水経路と低い場所を調べます。末端だけ乾いたままなら、水口側への偏りや畝間の連続性を見直します。適度な湿りが戻り、停滞水がなければ、その到達時間を同じほ場における次回判断の参考値として残します。
農研機構の大豆灌水支援システムは、位置、栽培、土壌、かん水などの情報と1キロメートルメッシュ農業気象データを使い、作土の土壌水分や乾燥ストレスを日単位で推定し、先の予測も判断材料として提示します。ただし、かん水時期は気象だけでなく土壌や栽培条件にも左右されます。システムの推定値は準備開始や巡回順を考える補助情報とし、排水口の状態、実際の土の湿り、水の到達は現地で確認します。
シーズン終了後は、ほ場ごとに「乾燥を確認した条件」「末端までの到達時間」「排水完了までの時間」「翌朝の滞水箇所」を一枚にまとめます。この記録によって、次の乾燥時に水が届きにくい畝間や、排水に時間がかかる区画から先に点検できます。前年の運転時間を無条件に再利用せず、その年の畝形状、排水路、作物の生育、直前の降雨を確認して補正することが、乾燥害と湿害の両方を避ける現実的な運用です。