イチゴ炭疽病の育苗対策では、雨よけ、株元かん水、排水、通風を別々の作業にしない。茨城県農業総合センター病害虫防除部によると、病原菌の生育適温は28℃前後で、7~9月の高温期に発生が多い。潜在感染した親株や被害残渣が伝染源となり、降雨や頭上かん水で跳ねた水滴によって二次伝染する。このため、雨が苗へ直接落ちなくても、育苗床の中で葉から葉へ水滴が移れば、防ぐべき経路は残っている。

宮城県病害虫防除所は、植物体が濡れている時間が長いほど感染リスクが高くなるため、夕方には地上部が乾くよう、かん水時間と量を調整するよう示している。そこで始業時に「何分運転するか」だけを決めず、日没前に葉と葉柄が乾く時間を確保できる時刻から逆算する。曇天、通風不足、かん水量の変更後は乾き方も変わるので、固定時刻を守ることより、停止後の葉を実際に見て翌日の開始時刻や運転方法を修正することが大切になる。

かん水前は、雨よけの内側に吹き込みや結露由来の濡れがないか、通路に前回の水が残っていないかを確認する。すでに葉が濡れている区画へ通常どおり給水すると、新しい飛沫の発生源や長時間の葉濡れを見逃しやすい。あわせて、葉柄やランナーに陥没した紡錘形の病斑、しおれなどの異常がないかを見る。ただし、外観だけで炭疽病と確定せず、疑わしい株の位置を記録して健全株と区別する。

運転中は、列の入口側だけを見て給水完了と判断しない。始端、中央、末端を歩き、各ポットの株元へ水が入っているか、葉や葉柄へ飛んでいないか、鉢外へあふれていないかを比較する。停止直後には葉裏、葉柄、ポット周囲、床、通路を再確認する。濡れや給水不足を見つけた列には印を付け、正常な列まで一律に運転時間を延ばす前に、その区画の水圧、吐出口の向き、漏れ、目詰まりを調べる。

記録する項目は、日付、区画、開始・停止時刻、葉への飛沫、給水不足、鉢外へのあふれ、通路の滞水、夕方の乾燥状態で十分である。毎日同じ欄を使えば、異常が天候によるものか、チューブ清掃や配置変更の後に生じたものかを追いやすい。点検表の目的は作業実績を残すことではなく、翌日のかん水条件を変える根拠を残すことにある。乾かなかった区画は、翌朝の巡回で最初に確認する。

農研機構が公開する流水育苗ポット台の成果では、水滴を飛散させず各ポットの株元へ直接給水する構造が採られている。一方、活用上の留意点として、使用水の水質、かん水チューブの目詰まり、チューブ表面の汚れ、育苗ポットと給水口の位置、実際の流入確認が挙げられている。株元給水設備が動いていることと、全ポットへ適切に水が届いていることは同じではない。ポットを並べ替えた日やチューブに触れた後は、位置ずれを前提に運転中の流入を確かめる。

給水不足を見つけたときは、まず吐出口とポットの位置、チューブの折れや汚れ、末端までの通水を確認する。運転時間だけを延ばすと、正常な場所ではあふれや床面への落水が増える可能性がある。反対に、水圧を上げるだけの修正も株元からの跳ね返りを招くため、茨城県が示すように低い水圧で株元へかん水することを基本にする。設備を清掃・補正した後は、停止状態で終えず、短く運転して同じ観察場所で流入と飛沫を再確認する。

床と通路も給水設備の一部として扱う。茨城県は透水性のあるシートや、地面から離したベンチによる跳ね上がり防止を挙げている。通路に水が残る場合は、苗の真下だけでなく、排水口、床のくぼみ、シートのたるみ、人が歩いたときの跳ね返りまで見る。水たまりを避けて歩くだけでは原因は残るため、排水先を確保し、次回かん水後に同じ場所へ再び水が集まらないことを確認する。

病斑やしおれを見つけたら、健全苗と同じ作業列に置いたまま観察を続けない。該当株と周辺株の位置を明確にし、接触や水滴で他区画へ広げないよう区分する。茨城県は、育苗期には発病株周辺の苗も感染している可能性があるため、葉や葉柄をよく観察するよう示している。宮城県も発病株を伝染源として扱い、周辺株を含む早期の対応を求めている。処分範囲や診断に迷う場合は、地域の病害虫防除所、普及指導センター、JAなどへ速やかに相談する。

異常区画を扱った手や道具のまま健全区画へ戻らないよう、巡回は健全と判断した区画から始め、疑わしい区画を最後にする。葉かきなど傷を伴う作業日には、作業区画と使用した道具も記録しておく。外観上異常のない苗でも潜在感染の可能性はあるため、「症状がないから水はねを許容できる」とは考えず、雨よけ、株元給水、通風、排水、早期発見を継続して組み合わせる。

農林水産省は、病害虫が発生しにくい環境づくり、発生予察、物理的・生物的・化学的な手段を組み合わせる総合防除を推進している。薬剤を使う場合も、雨よけや株元給水の代わりとはせず、地域の防除指針と使用時点の登録内容を確認する。農薬登録情報提供システムと製品ラベルで、作物名、適用病害虫、希釈倍数・使用量、使用時期、使用回数、使用方法を照合し、古い防除暦や過去の使用経験だけで決めない。