先に守るのは、落ちた花ではなく次に咲く花房
農林水産省が掲載する農研機構整理資料では、施設トマトの高温による重要な障害として着果不良と果実肥大不良を挙げ、花粉、花粉管、胚嚢などへの影響を整理している。文献に基づく例では、開花前9〜5日頃の減数分裂期や、開花当日から3日後までに受けた高温が結実へ影響する可能性が示されている。つまり、落花を見つけた日の最高気温だけを調べても、原因となった環境を取り逃がす場合がある。症状が出た花を元に戻すことより、まだ開花していない上位花房を次の高温から守ることが当日の優先作業になる。
ただし、資料に掲載された温度と障害の関係は、品種、試験設備、昼夜温、湿度などが定められた個別試験の結果であり、その数値を全国一律の制御設定にしてはいけない。例えば、開花6〜10日前のハウス内平均気温が29.5℃になると稔性花粉がほぼゼロになるとの回帰推定も紹介されているが、これは特定試験の推定値である。現場では花房に番号を付け、毎日ほぼ同じ時刻に、花蕾数、開花数、落花数、着果を確認できた数を記録する。異常があれば、その花房の開花日から少なくとも10日前までの環境と作業を遡る。これが自園の危険条件を見つける出発点となる。
制御盤の表示値ではなく、花が経験した温度を残す
温度記録は、センサーの値が正しい場所を代表していることが前提になる。農林水産省の施設園芸省エネルギー生産管理マニュアルは、温度センサーを作物の生長点付近など適切な高さに設置し、暖房機や送風ダクトの吹出口付近を避けるよう示している。夏秋トマトでは、生長に合わせてセンサーの高さを点検し、着目する花房や生長点の周辺環境を把握する。直射日光や機器の局所的な風の影響を受けていないか確認し、入口だけでなく、施設中央や奥に温度差が疑われる場合は移動測定または追加測定を行う。センサーを移した日は、その位置と時刻も記録する。
花房台帳には、日最高温度だけでなく、時刻別の温度推移、夜間の最低温度、湿度、天候を残す。さらに、天窓・側窓を開けた時刻、遮光を開始・終了した時刻、細霧やファンの運転時間、かん水時刻を同じ日付に並べる。花房ごとに開花日を記録しておけば、落花や着果不良が確認されたとき、「高温だった」ではなく、「開花7日前の正午前後に温度が上がり、その時間は遮光前だった」と具体的に振り返れる。温度記録が欠けた日は、近隣の外気データで施設内温度を置き換えず、欠測として残す。外気温とハウス内温度は同じではないためである。
対策は排熱、入熱抑制、冷却の順に点検する
静岡県農林技術研究所は、施設園芸の高温対策を「換気、遮光・遮熱、冷却」に大別している。最初に、暖まった空気の出口と外気の入口が確保されているかを見る。天窓、側窓、妻面開口部の動作、防虫ネットの目詰まり、カーテンの収束不良、誘引した茎葉や資材による通風阻害を点検する。同研究所の技術集では、窓が大きく換気量の多い温室ほど涼しく、細かい目合いの防虫ネットは室温が上がりやすいと説明している。ただし、ネットの選定は対象害虫の大きさを基準とするのが原則であり、高温対策だけを理由に必要な防除性能を外してはならない。
排熱経路を確認した後、強日射が入る時間帯の遮光・遮熱を検討する。遮光率が高いほどよいわけではなく、静岡県の技術集は、遮光率が高すぎると光合成不足になると注意している。開閉設備では朝夕や曇天まで閉め続けず、花房台帳に開始・終了時刻を残して温度と生育の両方を評価する。細霧冷房は霧の蒸発による気化冷却であり、同技術集では雨天など高湿度で霧が蒸発しにくい日は効果が低いとしている。運転中は温度だけでなく湿度、霧の消失、葉や花の濡れ、施設内の温度むらを確認する。設備を追加する前に、既存設備が意図した時間に作動しているかを実測することが重要である。
効果判定は対策日の室温ではなく後続花房で行う
対策を実施した日に温度が下がっても、それだけでは着果改善を確認したことにならない。花房番号ごとに、総開花数、着果を確認できた数、落花数を継続して記録し、対策前の高温にさらされた花房と、対策後に感受性の高い時期を迎えた花房を分けて比較する。複数の設備を同時に変更すると、どの操作が効いたか判別しにくい。緊急時を除き、まず換気経路の改善、次に遮光時間の調整というように変更内容と時刻を明確にする。細霧を加えた場合も、乾いた晴天日と高湿度日を同じ条件として評価しない。
落花や着果不良は、高温だけでなく、かん水不足、根の状態、草勢、受粉状況、病害虫なども含めて確認する。正常に見える隣の株や別区画との比較は有効だが、温度だけで原因を断定しない。症状が続く場合は、花房台帳、温湿度グラフ、かん水記録、施設構造が分かる資料をそろえ、地域の普及指導機関やJAへ相談する。着果促進を目的とする植物成長調整剤を使用する場合は、過去の慣行濃度をそのまま使わず、使用時点の農薬登録と製品ラベルで対象作物、使用目的、濃度・使用量、使用時期、回数を確認する。環境対策と農薬使用の記録は分けて残せば、原因検討と使用履歴確認の双方に利用できる。